LOVE SONG














「今日のMステ、LUNA SEA出るって!」


「うっそぉ!だって、出る予定ないって…」


「それがね、緊急で出るんだって!」


「マジ?! すっごい楽しみ!」


そう騒いでいる子達を、俺は思わず見てしまった。


スギちゃんもそうらしく、同じ方向を見ていた。


「期待されてるみたいだねぇ、オレ達」


スギちゃんが色の濃いサングラスを外しながら楽しそうに言うと、助手席に座っていた俺は溜め息をついた。


苦手なんだよな、テレビってさ。


「…やめてよ」


「良い事じゃん、楽しみにしてくれてるファンが居るって」


ちょっと前屈みになっていた俺は、溜め息をまたひとつ吐くとどさっとシートにもたれた。


「さすがに慣れたとは言っても、苦手なものは苦手だよ」


テレビ出たての頃なんて、ひたすらうつむいてたし。


「今度のデモ、聴いてくれたんだろ?」


「聴いた聴いた。Jが、なぁーんにも言わなかったって歌でしょ?」


「隆とJ、仲良いのか悪いのかわからないよな」


けらけら笑ってやがる。…ったく、一緒にいるこっちは笑えないっつーの。


隆ちゃんの事をずっと想って来たんなら、少しはわかってるんだろうな、スギちゃんも。


俺たちは、そう長くないかもしれない。


ずっと続けてきたからわかる、何度となく感じてきた思い。


『解散』と言う二文字が、最近になって俺の中から消えてくれない。


いや、『解散』じゃないだろう。


俺の中では――――ちょっとクサいけど、『終幕』、かな。


「隆ちゃん、荒れたりしてない?」


「ああ。至って温厚。付け加えるならもっと怒ったりしても良いんじゃないかってくらい」


オレならJと全面対決だろうけどねー、とか笑ってやがるし。


…ホント、スギちゃんは良く笑うよね。楽しそうにさ。


「スギちゃんの曲は即決だったのにね」


そう言ったら、スギちゃんはまた笑った。


もしかしたら、本当になるかもしれない思いはいつまでも俺たちの後ろにくっついてきていた。


離れるなんて事、一度もないままで。


このままJの隣にいられる時間も、俺が知らないうちに減っていってるのかもしれない。


「隆はさ」


ふと横を見ると、スギちゃんがそっと目を細める。


隆ちゃん限定に向けられる瞳。


「隆はどこまで昇るんだろうな」















――――また、手の届かない所まで昇るのかな。















言わなくてもわかる、スギちゃんの隠された言葉。本当の気持ち。


ソロで活動した一年間、隆ちゃんはトップに立った。


ずっと俺たちと続けてきたロックとは正反対の道を選んで、それは自分自身に対しても挑戦したんだろうと思う。


そしたら見事にブレイクした。


『河村隆一』として、隆ちゃんは大人気になった。


そして約束していた1年後、『LUNA SEA』に戻った時。


ネットでは散々に俺達を非難していた連中が大勢居た。


『LUNA SEA』に戻るよりも、個人でやった方が良いと。


メンバーには言わなかったけど、きっとスギちゃんは知ってる。


俺と同じでホームページ持ってる人だから。


でも、今でもスギちゃんは、隆ちゃんに惚れ込んでる。


「一人でやった方が良い?」


俺も隆ちゃんのソロの時の活動は知ってる。


シングルもアルバムも全部持ってる。


だって、その声に魅了された一人なんだから。だから一緒にやって来れたんだから。


俺の突然の問いに、スギちゃんは一瞬こっちに振り向いた。


「…傍に居たいって思うよ。ずっとこのメンバーで、誰よりも輝く自信はある」


「うん」


「何よりもアイツの傍に居たいんだ」


それはわかる。だって俺も一緒だから。


「だけど、たまに思うんだ。『やってられるか』って」


それもわかる。だって俺も一緒だから。


「でもあのメンバーだったから一緒にやって来れてる。誇りに思ってるよ、皆をさ」


「うん」


俺もそう言って微笑むと、スギちゃんは俺を見て頭をがしがし撫でた。


…Jみたいだな。そう言ったら多分俺、半殺しにされそうだけどさ。


似てるんだよね、スギちゃんとアイツ。





























「イノ」


中に入ってバラバラになると、速攻でアイツに呼びかけられる。


俺が一番離れたくない人で、誰よりも尊敬してる、大切な幼馴染み。


スギちゃんも隆ちゃんの所に速攻で行ってるし。


「ホラ」


俺が聴きたがってた新譜を渡してくれる。


…いや、買えば済むんだけど、身近に持ってる人がいるなら、借りて聴いてからの方が良いじゃん?

Jはじっとオレを見つめてんだけど…何だよ。俺、何か変かな。


「あ、ありがと……なに?」


「スギの車に乗って来たのか?」


「うん。車ブッ壊れたから、タクシー拾おうとしてたら、会った」


「ふぅん…」


Jは何かもの言いたげだったけど、俺はその新譜を鞄の中にしまってからJを見上げた。


その身長差がかなり憎らしい。…ちきしょう、この馬鹿デカ野郎め。


「なに」


「いや。……別になんでも」


ちょっと鬱陶しくなってきた耳元の髪に触れられて、俺は目の前の奴の行動に少しだけ疑問を持つ。


まさか…うん、多分ハズレなんだけど。って言うかそうであってくれ。


「妬いてる?」


ちょっと笑顔を浮かべてそう言ってやったら、Jは信じられない行動をしやがった。


誰がどこで見てるかわからないってのに、一瞬でキスをしてきた。


「っ…!」


口元を押さえてじっと睨んでやると、Jはいつもの悪戯が成功した子供のような笑顔を見せた。


「ん。妬いてる」


いとも簡単にJが言う。


多分真っ赤になってるだろう俺の顔は、呆然としてしまった。


もう少し間があいてたら「は?」とか訊いてただろう。


「お前が、オレ以外の隣に座ってるから」





























…ちょっと反則過ぎやしませんか、Jさん。


お前、そんな奴だったっけ?


自分がどれだけの殺し文句吐いてるか全然わかってないだろうな、こいつ。


「何、顔真っ赤にしてんだよ」


しもするっつの。


頭の片隅で慌てふためいてる自分にも面白いと思うけど、冷静にツッ込んでるもう一人の俺もどうかと思うけどさ。


こういう言葉言わないハズだよなぁ、こう…何だっけ? 悩殺的ってのは。


「馬鹿。そう言うこと、言わないだろお前」


ちょっと視線を逸らす。


だって、これ以上正面からこいつを見てられるはずがない。


「お前にしか言わねぇよ」


ぼそりと耳元で囁かれた。


お前、俺が耳弱いっての知ってるだろが!


「だからやめろってば…!」


こいつにだけは何も言えない。


俺の弱い所なんて全部知ってるし、俺の知ってる事の殆どはこいつから教えて貰った事だし。


それこそキスもセックスも、何もかも。


「なぁ。……今夜、行っていい?」


よし、合格。


囁かれるように言われた言葉に、俺は思わずそう思ってしまった。


この言葉さえも普通のこいつの声のデカさで言われたら殺そうと思った。


「…自分で鍵開けて来なね」


今日の仕事はお前の方が遅いだろ? だから、自分で入って来なね。


意味も含めてそれだけ呟くと、奴は口の端を上げて笑った。