Won't leave my mind














電話をしても繋がらないし、連絡もない。


また冬にやってたライヴをするみたいだけど、その言葉も隆ちゃんに聞くまで知らなかった。


ふぅん、隆ちゃんには連絡とってんだ。


拗ねたって何も始まらないし、だからってこの想いがアイツに届くわけもない。


むしろ届いてくれるなと思う。


こんな、独占欲にまみれた俺の想いは。


こんな汚い感情で、アイツを穢したくない。


「だめだなぁ、もう…」


初めて俺のアルバムの発売日とアイツのシングルの発売日が同じだって聞いた時、すっごく嬉しくて、飛び上がりそうだった。


でもアイツがプロデュースしてる彼女のアルバムとも同じだって聞いた時、何でだか泣きそうになった。


彼女が嫌いなんじゃない。


むしろ、アイツがプロデュースを初めて受けた理由もわかった気がしたくらいだから。


自己嫌悪に陥って、俺はホームページさえ更新する気がなくなっていた。





























ただでさえ忙しいのに。


あいつの声が聞きたいのに。





























「ばーか」


何度も言ってきた言葉を口に出しても、それはかすかな想いさえも届かない淋しさで逆に打ちのめされる。


まるで叶う可能性のない片想いみたいで、こんな弱い俺は嫌いで。


ねぇ、今どこにいるの? 何してるの? 声も聞かせてくれないの?


いよいよ嫌われたかな、なんて呟いてみる。


それは一秒でも時間が経つごとに真実味を帯びてきた様な気がして、めちゃくちゃ怖くなった。


「ねぇ…どこに居るんだよ……」


淋しい。


終幕以来、一度も思わなかったのに。


いつでも連絡取れるからって放っておいたのがだめだったのかな。


それとも、アイツが怒るようなことを何かしでかしてしまっていたのかな。


それに俺が気付かないだけなのかな。


だから、アイツは俺を拒否してるのかな。


手元にある彼女のジャケットを見て、軽い嫉妬を覚えた。


彼女の記事を読んでも、アイツが彼女に付きっきりみたいなカタチなんだってわかった。


それが悔しい。


アイツの左側は、いつも俺の居場所なのに。傍に居られない俺がもどかしい。


出来るならすぐに逢って、抱きしめて欲しいくらいなのに。





























ねぇ、どうして?





























「あーもう!」


荒々しく電源を落として、風呂に入ってこの気持ちを流してしまおうと考えた。なんて良い考え。


そんなコトしたって拭い去れないかも知れないけれど、この際考えない様にして。


「Jのアホ。今度会ったら殴ってやる」


さっさと服を脱いで、バスルームに入った。


案の定あの気持ちは拭い去れなかったけど、そんなのももう考えたくなくて、深みにはまるのもわかっていたから眠る事にして


しまおうと決めた。


明日は休みだし、ゆっくり寝れる。一日中眠っても大丈夫。睡魔にさっさと捕まえられて、俺は夢の中に飛び込んでいった。












































「…………」


着信履歴を見てみると、どうしてか俺が寝ようと決めて睡魔にとっ捕まって絶対起きないだろう時間にアイツからかかってきて


いた。


「何だよ…」


どうしてすれ違ってるんだろうね。


どうして傍に居て話せないんだろうね。


「もう…」


ぽい、と放り出した携帯の着信音がいきなり響き出す。発信者なんて見なくてもわかる。


「もしもし?」


少し不機嫌を装って出てみる。


『よぉ』


そんだけかよ、この馬鹿。


「何時に掛けてきてんだよ。寝てるに決まってんだろ」


『やっぱり? だろうなぁ、とは思ったんだけどな』


「何の用?」


『何の用って…別に、用事はないんだけど』


「じゃ切るよ」


『ちょっ…イノ?』


「お前はあの娘と仲良くやってんだろ。じゃあね」


無理矢理に終わらせて切る。


携帯をベッドの上に投げ出して、俺自身も転がった。


馬鹿みたいだ、とも自分で思う。


凄く嬉しいはず。凄く、聞きたかった声があったのに。


俺はいつでも自分から手放して、それを後悔しない様に振り返らなかった。


冷たい、と良く言われるけど、そうでもしないと怖かったから。


それに傷つけられるのが怖かったから、逃げ出した。


Jからも、逃げ出したんだ。


「素直じゃねぇの…」


本当は言いたい。








『逢いたい、傍に居たい。――――傍で、いて欲しい』








でもそんな言葉は似合わないから、そう自分で決めたから、あえて深入りはしなくなった。だから誰からも見放されていく。


最後には、たったひとりになってしまうんだ。


いつだって何も言えなくて。


素直になればもっとちゃんと判ってもらえたはず、なのに俺は何も言わなかった。


見放されるのが怖くて、ずっと傍に居たくて。嫌われたくなくて。


「俺が悪いんじゃん」


そう、いつだってほんとは判ってる。


自分が悪いんだってことも、それが原因なんだってことも。


Jに素直に甘えられなくても、どこかでそれをあきらめている俺が居るんだってことも。


「イノ」


ああ、Jの幻聴まで聞こえてきた。末期症状じゃん、駄目だね俺。


「イノ?」


また聞こえてきてるんだ。


末期症状どころじゃないじゃん。もう限界とかなんじゃないの?


「イーノっ!」


ぐい、と引き寄せられた先には。


「………じぇっ……なんでここに居んの?」


口から出たのは素直じゃない言葉。愛想尽かされてもしょうがない言葉。


「だからさっき電話したのに」


くっくっと微笑う奴に。ああ、やっぱり好きなんだって自覚させられた。こんななんでもない仕草に。


「何か勘違いしてんじゃねぇの、お前?


 彼女は確かに、プロデュースするオレから見て最高の逸材だけどさ、オレの隣はお前の居場所だろ?」


「……だって」


「だっても何もねぇだろ。……ったく、何回言えばお前は素直に肯くかねぇ?」


半ば無理矢理に体を起こされて、そのまま腕に絡め取られて。


奴のぬくもりが俺を安心させてくれるまでに、そう時間はかからなかった。


ぎゅっと逆に抱きしめ返すと、小さな溜息さえもがなくなってく。


「待たせたけどさ」


「…………」


「ライヴが一段落着いたから、ちゃんとこうしてきただろ?」


「…遅い」


今にも泣き出しそうな俺の、精一杯の強がり。


傍に居るとどうしても強くはなれないから、せめてこれくらいしても許されるよね?


「悪かったって。でも、さ。これだけは覚えとけよ?」


疑問に思って、抱きしめられたまま軽く首を傾げる。


「オレの居場所はお前がいる所なんだってこと」


「……ばか」





























たまには許されるよね、素直になっても。Jなら、だいじょうぶだよね?





























俺はそのまま目を閉じた。


お前の居場所が俺の居る所なら、俺の居場所もお前のいる所だよね?


Jに言ってやったら、当たり前だって言ってくれて――――Jなら、きっと大丈夫。


俺を救ってくれるのは、Jだけしかいないから。


Jだけは、俺を置いていかないから。