I wish I had never met you 一人で居る事に慣れていても、お前が傍に居ないっての怖い。 そんな弱気な言葉で、お前は俺にお前らしくない声でちいさく言った。 「隣には居なくて、その…今までその立場にいないお前? それが目に入った時、不安だったな」 ちいさなちいさな不協和音。 それを聞かなかった事にするには遅すぎていて、お前は吐き出した。 どんなに後になって後悔していても、どんなに悔しくて淋しくても。 真実だけは逃したくなかったから。 そして、俺には言ってくれたから。 「今更じゃん? そんなの…もう半年以上が過ぎて、もうすぐ一年経っちゃうんだけど」 「怖くねぇ?」 ――――お前は、怖くないの? オレがお前の隣に居ない事が。 告げられた言葉に首を振れるかと言えばそうではなくて。 俺は、そんなわけないよと返した。 今日明らかになった、お前の「隣」に居ない事の怖さ。 例えばこれから先、どんな事があってもけして慣れる事ではなくて。 傍に居る事が重要なんじゃないけれど、別に傍に居なくたって平気ではあるけれど。 でも、確かな違和感があった。それは、互いに存在していた。 「逢わなきゃ、良かった?」 気がついたら俺は、そんな言葉をJに吐き出してしまっていた。 一度も思った事のない、言葉を。 肯かれたら、生きていけない。その言葉を、訊いていた。 「イノ…?」 「お前は俺に逢わなきゃ良かったって? 俺に逢わなきゃ、何も出来なかったのに」 止まらないみたいに言葉があふれ出ていて、Jを傷付けたくなんてないのに俺は次から次へと言ってしまっていた。 頭の中ではわかってるのに、止まらない。 「俺に逢わなかったらお前は楽だったとでも言うわけ?」 「違…あのな、イノラン……」 慌てた様な声が降ってくる。 でも、俺は思わず吐き出してしまっていた。 「俺に逢わなかったら良かったって? ……それとも俺がお前縛りつけてるって言いたいわけ!?」 「イノ!」 両腕を捕まれて、大きすぎるほどの声でそう言って。 現実に引き戻される様な感覚に、俺ははっとした。 「――――…ごめん。そうじゃないよね。そんな事、言いたいんじゃなかったのにね……」 自嘲めいた笑みが顔に浮かぶのがわかる。 はっきりと、でも少しずつ泣きたくなる気持ちをも抑えきれないままで。俺は何も言えなかった。 Jを傷付けた。Jだけは傷付けたくないのに、そいつまでもを傷付けた。 ただ、一緒に居たい。傍に居たいだけなのに、傷付けた。 「井上?」 「なに」 おずおず、という風な言葉に、かわいくない返答。 どこまでもすさみきった気持ちが、治る事など出来ないでJを傷付けていく。 どうしてこんな事しか出来ないんだろう。 どうして、傷付けたくないのにあんな事を言ったんだろう。 「あのさ、井上? オレは――――…お前に逢えて良かったと思ってるよ」 ぽんぽん、と軽く頭を叩かれるのを感触だけで感じる。 すごく安心するのに、泣きそうになる。 「お前がさ、そういう事はっきり言ってくれるのって滅多に無いじゃん? お前が言ってくれるどんな言葉でも嬉しいんだわ、オレ」 微笑うような声で、Jは言ってくれるけれど。 そんなはずない。そんなはず、無いよ? 「お前になら、傷付けられても平気だわ、オレ」 「……潤?」 「だって、お前そんな事言っててもちゃんとオレの事好きなんだって言ってくれるからさ」 瞬時に顔が沸騰しそうなくらい真っ赤になるのを必死で抑えて、俺は毒づいた。 「テメエ殺す。自意識過剰」 「はいはい。でも、さ」 ひょいと、自分以上に背のちいさな俺を覗き込む様にして。 「今回みたいなの、やめてくれよ?」 「え?」 抱きかかえたクッションから顔を上げると、Jは少し切ない表情で俺を見ていた。 「だからさ…『お前に逢わなきゃ良かった』なんて、考えた事もねぇんだわ」 呆然としてみている俺に、Jはゆっくりと頬に手を滑らせて。 「何て言えばいいのかわかんないけどさ。お前が居なきゃ、オレだめなんだから」 ぎゅっと抱き込まれる感覚。一番、安心できる体温。 それが俺を包み込んでくれる。 「じゅ…」 「逢わなければ良かった?」 ぽつりと続けられた言葉に、俺はびくっとした。 そんな言葉、誰よりもお前からは受け取りたくない。 「そんな出逢い、オレらはしてないはずだろ?」 メンバーも、スタッフも、友達も。 そう、そんな出逢いなんてほとんどした事ない。 「出逢って良かった、って言う出逢いしかしてない。そう、思おうとしてたのお前だろ?」 「……うん」 「オレは、お前と出逢えて良かったよ」 |