Dearest 目を覚ました時には何故か泣いてた。 ……おかしいな。夢の中では凄く嬉しくって、楽しくって、安心していられたはずなのに。 なんでこんなにぽろぽろ涙がこぼれてくるんだろう。 なんでこんなに、…苦しいんだろう。 胸のあたりをぎゅっと掴んでみても、答えなんか出てくれない。 とりあえず枕元に転がっていた煙草に火をつけて、精神安定をはかってみようとはしたけど。 「…何でこんなに、泣いてんだろ…」 この切なさの理由は、きっと『サミシイ』。 いつも傍に居てくれた人がもう居ない淋しさ、いつも最初に言ってくれたアイツさえも居ない淋しさ。 当たり前に感じていたものがもう無い、淋しさ。 夢の中では。そう、夢の中ではみんなと一緒になんか楽しんでた。 何をしてたのか覚えてないのに。いや、何もしてなかったんだ。ただ何か話してただけだったんだ。 それだけなのに、凄く楽しくって笑う事しか出来なくって。それでも、満たされていた。 『孤独』を感じる事もなかった。 「どうして俺、淋しいんだろ…」 普段はそんな孤独感じない。 むしろ一人で居る事に慣れていて、一人が苦痛じゃなかったんだ。 ああ、そっか。 「……そっか。俺、誕生日なんだっけ」 携帯電話の日付は、ちょうどさっき俺の誕生日を回ってすぐくらい。 さっさと寝た俺はそんな事忘れていた。みんなも…こんな思いをしたんだろうか。 『サミシイ』、と。 目が冴えてしまった為に眠る事も出来なくなる。 こんな夜は絶対に眠れないのを判っているから、とりあえずシャツとジーンズに着替えて、リビングに行って。 コーヒーをインスタントで終わらせて、ソファに座り込んだ。 にゃあ、と擦り寄ってくる愛猫をそっと抱き上げて、抱きしめて。 まるでこの静かな夜に押し潰されそうなほどの淋しさ。 ソファから床に滑るようにして座り込んで、猫をあぐらをかいた上に乗せて頭をもたれさせる。 目を閉じればただ密かな時計の音だけで、虫の声もこの都会には響かなくて。 窓の向こうには嫌な印象しか受けないネオンが光っていた。 素直にならなかった代償は、こう言う時にカタチを変えて俺を責め落としていく。 あの時。Jが言おうとしたあの時、俺はJよりも先に言った。 『もう、駄目じゃない?』 もう続かないんじゃない、と言外に響かせて。 その後にみんなにいろいろ言われて、よく言う気になったねって隆ちゃんにまで言われたけど。 …でも俺は、あのままで居たかった。 どんなに衝突しても、どんなに言い合いしても、それでもあの中で居たかった。 みんなと、一緒に居たかった。 でも俺はそれが出来ないって判っていたから、Jが言おうと口を開いた一瞬に言ってやった。 案の定、みんなが俺をじっと見つめた。 責める様な目で、驚いた様な目で、不思議そうな目で。 俺は自分の気持ちよりも、みんなの気持ちを最優先させたかったから。 全部笑顔で返して、誰にも気付かれない様に、ただ笑った。 もうこれ以上続けたら輝けない…隆ちゃんの言葉は重くて、とても一人では抱えきれそうにないものだったけれど。 そしてみんなと別れた後、泣き出しそうなくらい弱い俺を封じ込めて、何でもないよって言う顔で何もかも続けてきたけれど。 あの時、素直にみんなの前で言ってたら、何か変わってたかな? そんな考えが頭をよぎって、まさか、と頭を軽く振った。 そんなはず無いんだ、だってもう一年が来ようとしてるんだから。もう、遅いんだ。 ぴんぽん♪ 部屋中に響いた音に、俺はのんびりと立ち上がって鍵を開けた。 「イノちゃん」 にっこりと笑って、隆ちゃんが訪ねてきてくれたみたいだった。 「はい、これ」 鮮やかで華やかな花束を渡されて、俺は少し戸惑った。 「これ…」 「花ねぇ、送るにしちゃちょっと切なくてどうしよっかな、って思ったんだけど。でも他に考えつかなかったしさ。 この花、イノちゃんみたいで好きなんだ」 「だってこれ…向日葵とダリア、でしょ?」 うん、確かダリアだ。向日葵とダリアと、ちりばめられたかすみ草の花束。 このメインの向日葵とダリアは、俺みたいと言うには華やかで綺麗すぎる。 むしろ向日葵は8月の誕生花なんだから…Jのイメージがあるんだけど。 「なんで?」 「花言葉知ってる?」 「知らない」 「えーっとね、ダリアは『移り気』ってのが花言葉なんだって。でも、もうひとつは『可憐』で、それがイノちゃんみたいだなって。 向日葵はずっと唯一の存在しか見てないじゃない?それがイノちゃんみたいで、凄い印象に残って」 イノちゃんだけじゃなくてJくんも同じなんだけどね、と隆ちゃんは笑った。 「あとね、かすみ草は…ずっとイノちゃんのイメージあるんだ。だから」 「……ありがと」 「今、暇?」 「うん。全然暇。良かったら寄っていってよ」 思いがけない花束を抱えて、俺はそう笑うと隆ちゃんはさらに綺麗な笑顔を見せてくれた。 「良かったぁ…みんな、イノちゃん暇だって!」 …………みんな? 「イノ、お誕生日おめでと」 いきなりそう言った声。俺が一番好きな、あの低音の。 扉側にいたらしく、まったく姿は見えなかった。隆ちゃんの言葉のあとにいきなり顔を出して、そう言い放った。 「じぇ…」 「お誕生日おめでとう、イノちゃん」 「おめでとう」 みんなが笑って、言ってくれた。 その途端に泣きそうになって、俺は目に浮かんだ物を隠す為に花束に顔を埋めた。 ――――みんな、覚えててくれたんだ。 「よーっし、イノん家で誕生日パーティーと行くか!」 スギちゃんと真ちゃんが笑って、お邪魔しますと中に入っていった。隆ちゃんもそれに続いて歩いていく。 でも俺は、そのまま動けなかった。 みんながこうして覚えててくれた事が嬉しくって、凄く嬉しくて。 ぽんぽん、と頭を軽く撫でる感触に、俺は思わず堪えきれなかった涙をこぼした。 |