第八話。



sweet dreams

第八話 伝えたい言葉














学校へとのんびり歩いて行ってると、後ろから隆ちゃんの声が聞こえた。


「乗る?」


なんて、もしも彼女が悠ちゃん以外の女の子だったら嫉妬されそうなことを隆ちゃんは平然と告げる。


「乗る」


それを平然と受ける俺も俺だけど。何日間は、学校に出て来いって言われてたし。


「悠ちゃんは?」


「許可済み。ってか、むしろ『イノは放っておくと遅刻常習犯だから乗せて行け』って」


微笑って隆ちゃんが言い終わるとき、ちょうど俺は隆ちゃんの後ろに乗った。


「軽いなぁ」


発進させながら隆ちゃんがぽつりと呟くと、俺はこつんと頭を殴る。


風が凄く気持ちよくて、潤の隣にいるのはもう俺じゃないんだという気持ちがいっそう強くなった。


でもきっと大丈夫。


あいつもいつかは離れて、俺のことなんか忘れ去っていくんだ。


「到着。おはよ」


うまく悠ちゃんの隣に停めて、隆ちゃんはにっこりと悠ちゃんに微笑んだ。


悠ちゃんも返しながら笑顔になっていて、この2人のこういうほっとする雰囲気が大好き。


「おはよ。ちゃんとイノ守ってんね、隆」


「やだなぁ。俺が一回でも悠ちゃんとの約束破ったことあった?」


隆ちゃんは自転車を降りて押しながら悠ちゃんの隣を歩いていて、俺はその2人に続く形となった。


のんびり歩いてると、後ろから小さな声で「はよ」と短く声を掛けてくる重低音の声があった。


その声だけで、もう誰かわかった俺は振り返りもせずに同じように「おはよ」とだけ返した。


「吏歌は?」


「先行ったよ。なぁ、お前…」


「そ」


何かを言いたそうだったけど、俺は綺麗に無視して歩いた。


別に答えなきゃいけないなんて事はないし、俺があいつに答えてやる義務もない。


「……今日、お前ん家行くから」


「はぁ?」


なんで俺の家、知ってるんだよ。何しに来るんだよ。





























 ――――あぁ、わかった。





























「そういうこと、ね」


「……あぁ。良いだろ?」


今更聞いてくる?


俺の体なんか、気にしないで良いよ。恋人じゃないんだから。


「一緒帰ろう。一回家、寄っていくけど」


「うん」


このときは深く考えなかった。何も考えてなかった。


潤がどんな気持ちかなんて、潤がなんで俺なんか求めるのかなんて。


考えたって俺には理解できない。


考えたって、どうせ俺から離れるんだろ?


どうせ吏歌に重ね合わせてるんだろ?


そう思ってたから、潤の気持ちなんて考えてなかった。











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