sweet dreams 第十話 無様な姿 泣いてると体力を消耗して、俺はベッドに戻って寝転がった。 かすかにあいつのぬくもりを感じた気がして、離したくなくて掻き集めるように思いきりシーツにくるまった。 眠ってこのまま目覚めなければ、甘美な夢を見ていられる? 俺がどこかに消えてしまっても、俺をお前は求めてくれる? 壊れたみたいに涙は止まらなくて、さんざんにシーツを濡らしていた。 「潤…」 ぽつりと呟いても、それに応えてくれる人は居ない。 本当に傍に居て欲しい時、傍にはいてくれない。 「ねぇ、潤っ…!」 さっきのキスが、俺を追いつめていた。 初めて触れた、他人の唇に。 そしてそれが、誰よりも焦がれた潤のものである事が俺を追いつめていた。 ゆっくりと起きあがって、鏡の前に立った。 シャツを着ているだけの俺の体に、潤がつけたんだろう赤い痕が体中を埋め尽くすように無数につけられていた。 こんなものをつける意味も、なかったはずだ。 「なんで…」 俺はお前のものだよ。確かに、俺はお前だけのものだよ。 でも、お前は。 「お前は、俺のものじゃないはずだろ……?」 返事なんて返ってくるはずのない言葉に、自分自身もう駄目だと思った。 切羽詰まりすぎて、もう駄目。 潤に何をして欲しいのかさえ見えないのに、潤が俺を求める理由なんてわからなかった。 「……俺はお前のものなのにね…」 また涙があふれてきて、自分自身を叱咤した。 俺はもっと強いはずなんだよ、潤。 お前にこんな事されなければ、お前なんか好きにならなければ、俺はもっともっと強いんだよ? ねぇ、俺にどうして欲しいの? お前にとって俺って何なの? ねぇ、教えて。お前は俺に、どうして欲しいの? 長くなった髪を見て、俺は少しだけその髪に触れた。 これを切ってしまえば、潤は吏歌を俺に重ねない。 吏歌に重ねられて抱かれるなんて、そんなの許せない。 俺という存在を蔑ろにしているようで、すごく癪に思えてきた。 キッチンの方に行ってみるとハサミが掛けられてあって、俺はそれを握った。 長い髪を手櫛で梳いて、ひとつにまとめて。 これさえなければ、俺は俺で居られる。 潤に、俺で触れてもらえる。 ハサミを入れて、切る感触を味わった。
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