sweet dreams 第十三話 潤の真実 「イノ!」 綺麗なベリー色の髪と、とても綺麗な黒髪が、目に入った。 「吏歌……、悠…ちゃ……?」 吏歌と、悠ちゃんの隣には隆ちゃん、そしてテルとタクローが俺をのぞきこむようにして見つめていた。 「大丈夫? ああ、無理して起きなくて良いよ」 隆ちゃんがそう言ってくれたから、俺はあえて寝転がったままで居た。 頭がズキズキして、全身に痛みが走っていたけど。 でも、俺はたったひとつ気になる言葉だけを。 隣に居ない、あいつの事だけを。 消毒薬の匂いがして、真っ白な部屋で。病院だって、すぐにわかった。 「潤…は……?」 「……手術してる」 残酷なまでの言葉を、タクローに聞いたから。まだ良かったんだと思う。 「しゅ…じゅつ……?」 「お前庇って、トラックに轢かれて。……絶望的だって言ってた」 意味が理解出来なくて、タクローに視線を送る。 タクローは見てるこっちが痛くなりそうな目で、俺を見ていた。 潤は、あの時、俺を庇って? 「ばっかじゃないの……」 心配しているはずなのに、軽くうそぶいた言葉が口からこぼれた。 俺なんか庇う必要ないのに。こんな馬鹿、守る必要なんかないのに。 「イノちゃん」 さらりと髪を流れさせて、吏歌が俺を見据えた。 「なんで潤くんがイノちゃん守ったか、わからないの?」 「潤、お前の事好きなんだよ」 どこか遠くで、その言葉を聞いていた。 タクローが言った言葉は、その言葉だけは、俺に向けられたくなかった。 「嘘……だ」 「嘘じゃない。ずっとずっと、あいつはイノの事好きだったよ」 「やめて!」 俺は体を起こして叫んでいた。 「イノちゃ…」 「もう嫌なんだ! これ以上、傍にいたくないんだ!」 『恋人』としては居たくないんだ、誰とも。友達でさえ、あんな思いをするくらいなんだから。 「ずっと潤が好きだったよ? 好きで好きで、吏歌のこと嫌いになるくらい好きだった!」 そう、潤を殺したくなるくらい好きだった。 殺したら、俺のものとして居てくれるかもしれないと。 「でも潤と離れるって決めたんだよ! もう二度と…っ…陽の時と同じ思いはしたくないんだ!」 もう二度と会えない。もう二度と笑う事なんてできない。陽と、夢で逢う事さえできない。 ずっと黙っていた。 陽と仲の良かったテルにさえ、俺は何も言わないままで――――俺たちは一緒にいたんだ。 好きとかそういう感情は、持っていなかった。 俺は陽に潤の事を言っていたし、陽も俺の相談に乗ってくれていた。 こんな関係になったのも、そもそも陽の提案だった。 けれど、陽が死んだ日。陽は、ずっと俺の事が好きだったんだと友達から聞かされた日。 俺はあいつに何もできなかった。あいつに、何もしてやる事ができなかった。 その想いに報いる事も、それ以外でも何もできなかった。 死んだ後にそんな事を知らされても、何もできないままで後悔だけが残っていたから。 だから、俺はせめてあきらめない事だけを続けてきた。 それがあいつのためにできる、最初で最後の事だったから。 「潤とは恋人同士にはなれないから、そうわかってたからこんな関係になったんだ。 それだったら、すぐに離れられるって…潤からすぐに別れられるから、そう思ったから!」 「……ねぇ、イノ」 悠ちゃんがぽつりと呟いた。 「潤がお前にどうして好きだって言わなかったか、わかる?」 わかるわけない。ずっと、そんな気しなかったんだから。 そんなの思いもしなかったから。 「イノがさ、ずっと黙ってるの知ってたんだよ。イノの想いに、あいつ気付いてたんだよ。 でもイノは絶対に言わなかった。潤は、言わなければずっとイノと居られると思ってた。 イノと離れたくないから、イノの傍でずっと居たいから、潤はずっとこういう関係で良いんだって言い聞かせてたんだよ」 「潤…が?」 「初めてイノを抱いた時に、イノが思い詰めてるんだってわかったんだって。 潤もお前のこと、ずっと好きなんだって……ほんとは、知ってた。 でもお互いにすれ違って、イノは自分の事で精一杯だった。潤のこと考えすぎてて、混乱したままだったじゃない? だから黙ってた」 責められるはずなかった。どうして教えてくれないんだって、言えなかった。 そんな言葉をたとえ聞いていたとしても、俺はきっとそんなはずないって言ってただろうから。 「潤、ほんとにイノのこと好きなんだよ。 イノを抱く事が、たとえイノがどんな事を思ってたとしてもそれでも嬉しいから、誰に責められても良いんだって言ってた」 「………そんなの、もう…遅いよ」 涙は止まってはくれなかった。 そうだと思っていたなら、あのキスの意味も俺を抱く理由も、わかっていたはずだったから。 どうしてこんな時に、いつも俺は相手の気持ちを知らされるんだろう。 「俺、あいつに何も出来ないよ……」 互いの事を想う前のままで居られなかったんだろうね? そしたら、きっとずっと笑っていられたのに。 潤も俺も、苦しい道を選ばなくてすんだかもしれないのに。 「出来ない事、ないよ」 吏歌がはっきりと言い放ってくれた。 それはまるで天から降ってきたみたいに、はっきりと。 「イノちゃんが今出来るのは、潤くんの傍に居てあげる事じゃないかな。潤くんが目を覚ました時に、一番にその姿を見せられるくらい、近くで」 「……でも」 「でもじゃないよ。それが、一番良い事だよ? 潤くんにとっても、イノちゃんにとってもそうでしょ?」 ゆっくりと、こくりと肯くと、吏歌は微笑んでくれた。 「ほら、着替え持って来たよ。あいつの事だからさ、すぐに目ェ覚ますから。起きれる?」 と、テルが俺の足のあたりに紙袋を置いた。 「うん。……ありがと、みんな」 「じゃ、オレ達帰るから」 あっさりとタクローが言った言葉に、俺は驚いて顔を上げた。 「え、……潤は?」 「だってほっといてもあいつ治るもん」 タクローに負けないくらい、あっさりと悠ちゃんが言い放つ。 そうそう、とみんなが肯く。 「じゃあイノ、あいつ面倒見てやってね」
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