「あのね、J。お前に対して文句言うつもりはないんだけどね」 「さすが長年の付き合いだな、イノ」 「いやもう馬鹿さ加減に怒る通り越して呆れてるからね」 「なっ! そりゃねぇだろ!」 「事実だし。ね、お願いだから」 ………俺、何か間違った事聞いてるんじゃないかな。 だってあのイノちゃんがJ君に『お願い』って。 「そりゃお前の頼みくらい聞いてやりたいけどそれは駄目」 「良いじゃーん。何、俺のお願い聞いてくれないの?」 「いやそう言う意味じゃねぇんだけどよ」 ……………じゃ何で聞いてあげないんだよ。 「何なら俺の愛猫も連れて行ってあげるから!」 「余計に厭だ!」 「久し振りにJに会えたら喜ぶよ?」 「いくら懐かれても無理なもんは無理なの」 「猫だって思っちゃうから駄目なんだよ。犬だとでも思え」 「うわ、めっちゃ投げやり。っていうか無理だって」 「良いじゃん。そう認識しろよ、何も入ってない脳味噌にそれくらい叩き込め」 ………これは何? 俺に対する痴話喧嘩で良いわけ? 「無理無理。他あたれ、ほら隆とか居るじゃんか」 ナイスJ君。 「あ、隆ちゃんは駄目」 即答ですか。っていうかさ、何の話なの? 「だからー、オレには無理なの。他あたれ」 「酷いな、J。俺がこんなに涙流しながら頼んでるってのに拒否すんの?」 「いや流してないし。むしろ命令だし」 「じゃヨロシク」 「だーから駄目だっつってんだろ!?」 「良いじゃーん! そんなに俺が嫌い?」 「そういう問題じゃねぇんだってば……お前もオレの事知ってるだろ?」 「そうだね一応知ってるね」 「その『一応』がいらねぇ」 「だって一応だし。厭でも知るっつの」 「そんなに判ってんなら他あたれよ………とにかく、オレには無理」 「何でさー! 良いじゃん、Jしかもう居ないんだって!」 ……あー…そろそろなんかムカついてきたな。 なんかイノちゃんがJ君にここまでこだわる理由知らないからかも知れないけど、余計に。 大体J君も何であんなに拒否すんのさ。普段はイノちゃんにムカつくぐらいベッタリなくせに。 どーやったってJ君にはイノちゃんあげないもんね。 「できるならそりゃ叶えてやりたいんだって、イノ。でもそれだけは無理なんだ」 「判ってるけどさ……だって他に、誰もいないんだもん……」 「うん……でもよ、それだけは勘弁してくれ」 雰囲気が雰囲気なだけに何か中に入れないし。 っつかJ君何をどさくさに紛れてイノちゃんの頭撫でてんのさ。 幼馴染みってこういう時良いよねー、ふーんだ。 「だって……みんな無理そうなんだもん」 「…うん。だからオレの所に来たんだよな。それは判ってるけど」 「……………」 「けど、それだけはほんとに駄目なんだよ」 「うん……判ってるよ、Jが駄目だって事くらい」 あーあーあーあー。 何、あれ。何でそんな二人ともラヴってんの。 イノちゃん俺のなんですけど。 「………でも、他に誰もいないんだもん……」 何でJ君にはそゆこと言うのさー。 付き合いの長さって言われたらしょうがないんだけどさ、でも。 俺は俺なりにイノちゃんをめいっぱい愛せてるつもりなんだけどなー…。 俺の独りよがりなのかなぁ……。 「……もう一度みんなに聞いてみろよ? オレも手伝うから」 「うん……ごめんね、J…」 「ばーっか。今更だろ?」 「そうなんだけど……隆ちゃんには頼めないし……そう考えたらJしかいなくって」 「そりゃお前ならいくらでも手伝うって」 あ、ほんとになんか落ち込みそうになってきた。 信じたくなかったけど、やっぱイノちゃんはJ君なんだよねー…。 …………帰ろうかな。 くるりと二人の居る部屋に背を向けて。 かなり重い溜息を吐いてみた。 気持ちが晴れるなんてある事もなくて。 そんな俺の耳に聞こえてきた。 「仔猫、誰かいる人いないかなぁ……」 ………………猫の話か! 「隆ちゃんも杉ちゃんも真ちゃんも多分駄目なんだよねー…」 「まぁ……みんな機材あるしな」 |