それは俺たち全員が胸を張って言える事。 一緒にいたいと思っていた。けれどそれじゃ駄目だって解ってた。 あの日俺たちが出した結果は、間違ってない。 だって俺たちは離れてても壊れるような関係じゃないから。 大丈夫。 まだ、ちゃんと自分の足で立てるよ。 遠く離れたロサンゼルスの街で偶然潤に会った。 会おうなんて約束さえもしてないのに会うって確率、かなり少ないと思うんだけど。 向こうは俺より三分くらい遅れて俺に気付いたらしく、くわえてた煙草を取り落とすくらいのリアクションを見せて俺は思わずそれに笑った。 「……笑うなよ」 「いやだってそれは笑うよ」 くっくっと肩を震わせて笑う俺にJは軽く俺の頭を殴った。 お互い『普通の日本人の髪の色』から遠く離れていたせいで気付かなくて当たり前なくらいなのに。 両方ともが気付くなんて俺たちの数十年に渡る友情も伊達じゃないみたいだった。 「なんでお前こっちにいるの?」 「俺はレコーディング。そっちは……ライヴ控えてんじゃなかったっけ」 俺の記憶が確かならこいつは俺より先にアルバムを出してプロモーションを行ってるはずだ。 なのになんでこんな所でふらついてるのか疑問に思うのもしょうがないってものなんじゃないかな。 「んー…そうなんだけど。ちょっと気晴らし」 「気晴らしにこんなトコまで?」 「ん。オレ、ここ好きだし」 そっと空を見上げる仕草はかつての君そのままで、何故か安心して微笑った。 あの頃、道を分かれた俺たちの立場や肩書きは変わってもやっぱり居場所は変わっていないままで。 俺は君の隣で、ずっと歩いてきたから。 君は俺の隣で、ずっと歩いてきたから。 だからどれだけの時間をかけてもけして変わらない、根本的な部分はあるんだと思う。 それさえ変わらないなら、どれだけ離れても俺は必ずお前を見つけられると思うんだ。 「そっか」 「お前は?」 たたみかけるように尋ねられて、俺は首を傾げて幼馴染みを見つめた。 「お前は時間、大丈夫なのか?」 「あぁ……うん一応ね。ギター録り終わったから、ちょっと息抜きで出てきた」 あまりにも閉じこもった空気の中では良い考えさえも浮かんできそうではなかったから飛び出した。 無駄なものは何もなくて、財布と煙草だけが今の俺が持っているアイテム。 携帯さえも放り出してきたのは静かな空間をあの無機質な音で遮られたくなかったから。 そんな状態の僕と君が出会うなんて、なんて素敵な偶然。 「ねぇ潤? 今日は時間有り?」 「……何、久し振りに語ろうって?」 「あいにく今の時間だからカフェだけどね」 苦笑して時計を見上げた先には太陽があと数時間で日没になるだろうけれど、それにはまだ達していない時間。 確かにと同じように笑って、とりあえず辺りを見回した。 たまにはこんな日も良いんじゃない? 思いがけない場所で、思いがけない旧友に出会えた日は。 時間に急かされずにゆっくり話してみようよ。 そしたらもっと君を知る事も出来る。 もっといろいろ、共通の思い出が出来る。 「じゃーどっか美味しいコーヒーとケーキを出してくれる所探そっか」 「あ、オレ知ってるぜ。ここのすぐ近くにあんの」 「行きたい!」 俺の言葉にさすが好みを熟知している幼馴染みはさっそくその店に向かった。 アンティーク店みたいな綺麗な外観のカフェは人気が無いのか知られていないのか、はたまたただ誰もいないだけなのか静まりかえっていて。 俺は幼馴染みと話しながら、思い出話に花を咲かせた。 こんなゆっくりした時間が流れるのはあの時、一緒にいた人間にしか生み出せない。 それが解っただけで俺たちのあの出会いも別れも、何も無駄なわけじゃないって解る。 こうやって二人で微笑い合ってるだけなのにそれさえも貴重な時間と変わる。 こんな関係が一生続くかけがえのないものになったら。 |